Haptik

アウフコロンシリーズ一作目。コミティア118にて発表。イラスト、短編話集の詰まった絵本です。収録されたイラスト、短編のお話を一部掲載してます。

ミヲクウタチキ

 夏、干ばつ地域を横断していた。水の匂いを追い歩き水脈筋をさがした。

 しばらくして遠くにみどりが見えた。二人の喉はもうカラカラだ。からっぽの水筒をぶら下げてみどりを目指し、なんとかたどりついた。干ばつの中、オアシスのような一帯に根ざすようにして小さな村があった。

 切れかかった水を求め村に入ると、どうやら不作のようだ。村の住人は「食べ物はないか?」といった顔持ちで寄ってくる。さらさらと人を払い、物々交換により水をもらうことができた。

 

 村の中心には大きな木が一本立っている。その木が村全体を翳らせているために一帯が乾くことがないという。

 その木には実がたくさん、取っても取っても減らないような数の実が実っている。それを食べればいいんじゃないかと聞いてみたが、村人はアレを食うと木に食われるのだと答えた。なんでも、食べれば最後、食った本人は生気が抜けて日が登っていないうちに木の根元へ近寄って、木と同化してしまうらしい。その実はこの一帯が不作に陥ると実り、それを誰か一人に食わせて生贄にすることで不作が解決されたという。それも、何度も。

 

 夜。借りた宿で夕食をとる。食事まで用意されたのだが、リィンが「このスープのまないほうがいいよ」と言う。何を意味するのかは察しの通りだ。私はスープを瓶いっぱいに詰め、夜を忍び、水脈に繋がっている井戸に投げ込んだ。

 その後、夕食のパンを二人で齧りながら村を後にしたのは言うまでもない。

 

 それからというもの、あのあたりは木々が生い茂り、川も流れるような土地になったという。

 

 もちろん、もう二度とあんな実がなることはないし、旅人が喰われたなんて噂が立つことも無くなった。

 

 

ヒビユクフユ

 立冬の頃に、大きな山脈の一角を歩いている。床はとうとう冷え込み、白い錆を積もらせようとしている。早いうちにちいさな洞でもみつけて春まで篭ろうという算段である。

 

 二人はみつけた洞に落ち枝をたくさん集め、買いあさった保存食と衣、寝具を確認した。この辺りの冬は短いと聞いている。一ヶ月も篭らずに、気付いたら春めくはずだ。

 いよいよ冬眠を始めた。することはない。暇だ。

 暇というものほど好きなことはない。特にこの二人だ。ゆっくり生きるだけで楽しい。

 何回か寝起きし、干し肉を齧っていたある日。雪がそこそこに降り積もっている日だった。子供が二人転がり込んできた。見るとまだ七か八といった坊とその姉といったところか。

 冷え切った子らを火に当て、食物を少しばかり分け与えた。ひどく冷えて疲れていた子らだったけれど一晩でずいぶん良くなった。

 姉の方に聞くと、家を出てきたのだそうだ。弟は母親が違うという理由で愛されなかったらしい。二人が一緒にいることが許されず、弟は一人その小さな体で暴力を受け止めていた。

 ある日、とうとう弟は眠り病をわずらってしまった。起きている弟に聞いても眠りたいと言うばかり。姉は決死の思いで弟を連れ、家を出たという。

 

 冬が明けたらこの洞を出て、近い村まで連れていこうかと伝えた。しかし二人は村へは行きたくないといった。

 二人はここで生きていきたいと言った。誰にも関わらず二人の力で。だから生きる術を教えてほしい、と。

 冬が明け、コルネットらは山道を歩く。

 子供二人はありがとう、と見送った。

 残された彼らは自分の腕で、足で生活を営み始めた。川の魚をとった。山の恵みを分けてもらい、質素に食事をとった。ぜいたくなことはせず、必要な分だけを食べ、ゆっくりと生活を始めた。

 でも、平穏が続くのは最初のうちだけだった。

 ある日から弟は眠りから覚めないようになった。

 

 少しして、山脈のふもとの村を巡っていたある日のこと。コルネットとリィンが、名のある医者のいる村を訪れた時に、ある噂をきいた。

 眠り病の男の子を売りに来た女児がいると。

「ぜったいに眠りから覚めない病をけんきゅうして欲しい。この子かいぼうしてもいいから、お金をください」と。

 その後、子供二人は実験の好きな医者にかいぼうされたという。

 

 今では、ちいさな病院の待合室にかざられている。二人の骸骨はおなじ飾り棚に、手を繋いで。

 

© 2016 Kiyuto Konno : Mimi Husagi

© 2016 Kiyuto Konno : Mimi Husagi