© 2016 Kiyuto Konno : Mimi Husagi

Ligature

アウフコロンシリーズ四作目にあたる絵本です。コミティア122にて発表予定。収録されるイラスト、短編のお話を一部掲載してます。

ミヤシズミ

 私たちは足休めに観光をしている。

 ここはこの辺りで一番美しいと言われる都だ。無数に引かれた水路を、手漕ぎの船に流されている。夏の日差しも白土の煉瓦に跳ね除けられて、とても涼しげだ。

 

 漕ぎ手に都の案内を頼み、それとなく気になったことを聞いていたのだが、あるとき意識が無くなったかのように船から落ちてしまった。慌てて船に引き上げたものの、夢うつつな状態である。

 そこから近い船乗り場へつけたのだが、困ったことに私は船を漕ぐのが特別下手なようでリィンを酔わせてしまった。

 

 見渡すと人という人が全て倒れている。

 近寄ってみるとしっかりと息はあり、どうやら病の類ではなさそうだがいやに気味が悪い。

 もうすぐお昼時。私の寝坊で朝食を抜かせてしまっているために空腹の二人は、無人の料理店を覗いては引き返しを繰り返し困っていた。

 

 少しして倒れていた人が起き上がり始めた。我先にと食事を頂き、店員に倒れていた話をしたのだが良く覚えていないようだ。

 その辺のいい大人を捕まえて、まだ倒れている人を指差し、話を聞いてみた。何人も聞いてみたのだが彼らには倒れている人が見えないらしい。それに全員が倒れていたことを知らないようだ。

 

「ここがさ」

「どした」

「ここが内側だとしたらさ、外側があると思うよ」

「ん。どういうこと?」

「いいからこっち」

 リィンの言うことがさっぱり理解できていないのだが、とりあえず付いていく。

 外側というのはどういうことだろうか。

 

 付いて行った先には何となく他の住人とは違った風な女性がいた。不思議そうな顔もちでこちらをみる姿は、リィンの言う外側から覗かれているようだ。

「失礼かもしれないけどあえて聞くわね。あなた、意識はどこにあるのかしら」

 少し答えに迷った。考えながら振り向くと、リィンはいつの間にか居なくなっている。

「ここにあります」

「……そう。ここの住人はね、意識が違う層にあるの。難しいかもしれないけど、意識の本人はこの都に居なくて、どこか遠いところに居ながらこの都に住んでいるの」

「本人は別のところに居るのに、ですか?」

「ええ。そういうことになるわね」

「じゃあこの都の人たちは人形か何かで、形だけある抜け殻だと」

「そこは好きに解釈してもらっていいわ。でもそうね、人形みたいかもしれないわね」

 そこで一旦女性の動きが止まった。この女性も外側にいるのだろうか。多分そうだろう。

 急に、何かを思い出しそうな気持ちになっている。なんだったっけ。

 

「お待たせしてごめんなさいね、話の続きいいかしら」

「お願いします」

「この都で見てきた人たちはね、みんな意識がここにあるって思ってるの。そして私みたいに自由に外側に帰れないのよ」

「ここに居てはいけないんですか?」

「そういうことじゃないんだけど、そうねえ。ここにいることに疑問を持たないって言ったら伝わるかしら。本当は外側にいるのに、それを忘れてしまって気づいたら外側で、知らないところで自分が死んでいるなんてこともあったのよ」

「……なるほど。それで私を作り物の都に送り込んだんでしたね」

「そう、意識が戻ってこなくなった人たちを助けてもらうためにね」

「でもその必要は無いですよ。それに戻すこともできないと思います。とりあえずここから出してもらえますか」

 

 重い双眼鏡のような機械を取り外し、どっと疲れを感じている。さっきまで居たつもりだった都はここから覗いていたのだ。

「おかえり」

「ただいま。リィンだけ勝手に戻って焦ったよ」

 リィンは悪戯ににやけた。

「コルネットさん、助ける必要がないってどういうことかしら」

「意識がどこにあるか、私は見たことがありません。仕事柄よく麻薬を食むのですが、恍惚としてきて感覚が拡張されても意識がどこにあるかは分かりません。体に、脳に、心に、そしてどこか外側にあっても変じゃありません。まして、この意識が自分だけのものとも言い切れません。それを知らないまま生きて死ぬのは彼らも一緒だと思います」

「そうねえ。でもね、私がこの都を作って閉じ込めてしまったのには変わりないの。どうにか戻してあげないと可哀想じゃない」

「残念ながら私たちができることはなさそうです」

 

 私たちは役に立つことなく施設を去った。

 無数の寝たきりで機械に接続された人々はきっと都で一生を終えるだろう。それより先に救いたがりの神様が先に死んでしまうかもしれない。

 ただ、それが不幸かは分からない。少なくとも今私が生きているつもりの人生をいきなり外側へ引きずり出されておかえりと言われても戸惑うだろう。あるいはそれが死ぬということなのだろうか。

 

「ねえリィン」

 リィンはいつの間にか居なくなっている。

 

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